遺言書作成と遺言執行

はじめに

通常、相続が発生すると、亡くなった人(以下、被相続人といいます。)の財産は、法定相続人がこれを相続します。しかし、法定相続人以外の人に財産を相続させたい場合や、法定相続人の中でも特に財産を多く相続させたい人がいる場合などは、「遺言書」を作成しておくことをお勧めします。

ご生前に遺言書を作成することにより、ご自身の財産をどのように引き継ぐのかを決めることができます。

本ページでは、相続の場合に有効な遺言書の種類や書き方、遺言の執行はどのようにして行うのか、誰に作成を依頼すれば良いのかなどについて詳しく説明いたします。

是非最後までお読みください。

有効な遺言書は3種類

民法によると、遺言は要式行為(一定の方式に従って行わないと不成立または無効とされる法律行為)であると定められています。

したがって、遺言は一定の手続きに従った遺言書を作成しなくてはいけません。これに反すれば、遺言が無効となってしまいますのでご注意ください。

民法が定める遺言の方式は次のとおりです。

普通方式 自筆証書遺言(民法968)
公正証書遺言(民法969)
秘密証書遺言(民法970)

なお、特別方式の遺言もありますが、一般的な遺言として、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つの様式について解説いたします。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、被相続人自らが遺言を作成した場合の遺言書です。

最大のメリットは、被相続人が一人で簡単に作成できますので、いつでもどこでも作成することができ、作成費用もかかりません。しかし、被相続人が一人で作成するため、内容に不備があったときは無効になる危険性があり、被相続人の死亡後、遺言書が発見されなかったり、誰かに書き換えられるという危険性などのデメリットがあります。

自筆証書遺言の要件は以下の3つです。以下の3つの要件がひとつでも欠けていると、遺言書は無効となってしまいますので、ご注意ください。

  1. 遺言者がその全文、日付および氏名をすべて自書する(自分の手で書く)
  2. 作成日を記入する
  3. 押印する

なお、相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、別に作成したものを添付することが認められています。この場合には、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合には、その両面)に署名し、押印しなければなりません。

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言書の内容を公証人に伝え、公証人が遺言の内容を公正証書として作成した場合の遺言書です。

メリットとしては、専門家である公証人が関与するため、要件が不備となる可能性がなく、公証役場で保管されるため、発見されなかったり、偽造されたりする恐れが少ない点です。

さらに、家庭裁判所での検認が不要なので、すぐに遺言書の内容を執行することができます。一方、デメリットとしては、公証人等に払う報酬等の費用がかかることや、作成時に証人の立会いが必要なため、遺言書の内容が漏れるおそれがある点などがあります。

なお、費用に関しては、日本公証人連合会ホームページを参考とされてください。

日本公証人連合会ホームページ
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02/2-q13

公正証書遺言の要件は以下の3つです。

  1. 2人以上の証人による立会いが必要となる(相続人、受遺者などその相続にかかわる人は証人になれません)
  2. 遺言書の内容記述については、遺言者が遺言書の趣旨を公証人に話し、公証人がその内容を筆記したうえで、遺言者に正しい内容かを確認する
  3. 最後に遺言者と証人が署名押印する

秘密証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が自ら作成した遺言書を公証役場に持参して、遺言書の存在を公証人に証明してもらう遺言書です。

自筆証書遺言とは違い、署名以外はパソコンで作成しても良く、遺言書の存在を明らかにできるため、発見されない恐れがないことがメリットです。反面、公証人に払う報酬等の費用がかかることや、公正証書遺言に比べ、無効となる危険性があることなどのデメリットがあります。

秘密証書遺言の作成費用は、一律11,000円です。また、遺言の内容は公証人の関与がないため自筆証書遺言と同様に相続開始後に家庭裁判所で検認を受けなくてはいけませんので、ご注意ください。

秘密証書遺言の要件は以下のとおりです。

  1. 遺言者が遺言の記載された書面に署名・押印する
  2. 遺言者が書面を封じて、①で押印した印章を用いて封印する
  3. 遺言者が公証人一人および証人二人以上の前に封書を提出し、自己の遺言書であることと筆者の氏名住所を申述する
  4. 公証人が証書を提出した日付と遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者と証人がともに署名・押印する

確実に思いを伝えるなら公正証書遺言を残しましょう

民法が定める遺言の様式について、3つの様式をそれぞれ解説いたしました。

それぞれ、メリットとデメリットがあることがご理解頂けたのではないでしょうか。

そのうえで、一番安全に安心して意思を伝えることができる遺言書は、やはり「公正証書遺言」です。

公証役場で作成された公正証書遺言の原本は、20年間または遺言者が100歳になるまでのいずれか長い年数で公証役場に保管されます。このように信頼性のある機関に、有効な遺言を確実に残すことができるのですから、是非、公正証書遺言を残すことをお勧めいたします。

公正証書遺言を作成する公証人は、判事や検事を経験した人が法務大臣の任命によって就任しています。したがって、遺言書作成時に一定のアドバイスをしてくれます。また、遺言書の真偽を巡る裁判が起きたときでも、自筆証書遺言や秘密証書遺言などにくらべて信用力がはるかに強いとされており、争いが長引く心配がありません。

公正証書遺言を作成する際に必要な書類は以下のとおりとなります。

遺言者の印鑑登録証明書
遺言者と財産を残す相続人の関係がわかる戸籍謄本(全部事項証明書)
法定相続人以外の人に遺贈する場合はその人の住民票
遺産に不動産が含まれる場合
① 登記簿謄本
② 固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税の納税通知書のなかにある課税証明書
2人の証人の住所、氏名、生年月日、職業についてのメモ(証人に対しては、公証役場で身分を証明できる運転免許証やパスポートなどを持参するように依頼しておく)
遺言者の実印(公証役場へ行く際に必ず持参する)
証人印鑑(証人は実印ではなく認印でも構わない)

遺言書の内容を変更する場合

どの遺言書であっても、作成した後、相続させる人が亡くなったり、火事や売却などで遺産が減少したり、逆に財産を購入して財産が増えるなど、遺言書の内容が変更する場合があります。または撤回しなければならないこともあります。さらに、相続させる人に対する気持ちが変わり、書き換えたくなる場合もあるかと思います。

そのような場合、遺言書は自由に書き換えることができます。

ただし、自筆証書遺言と秘密証書遺言の内容を修正する場合には、「遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつその変更の場所に印を押さなければ、その効力が生じない」と民法で定められており、訂正のしかたに不備があった場合には、無効となってしまう場合がありますので、ご注意ください。

公正証書遺言の場合には、基本的には公正証書を新規作成することになります。そのため、証人2名の立会いも再度必要となります(同じ人である必要はありません)。

また、費用に関しても、原則作成し直しとなりますので、新規で作成する場合と同様の手数料がかかりますが、全部または一部を取り消すだけであったり、祭祀承継者の変更(財産にかかわらない内容の変更)などの場合には、公証人手数料がかかります。詳細は、公証役場にてご確認ください。

遺言は、書いたあと、定期的に見直すことも大切です。ただ、遺言書が複数あると、死後、遺族が混乱するもとにもなりますので、書き直して不要になった遺言書は、破棄するか焼却するようにしましょう。

遺留分に注意する

民法では、遺言自由の原則が認められており、被相続人は、自己の財産を遺言によって自由に死後処分できるのが建前ですが、他方、一定の範囲の法定相続人には遺産を最低限取得できる権利が認められています。この最低限取得できる権利のことを遺留分といいます。

遺留分が認められているのは、被相続人の配偶者や子(代襲相続人を含む)、孫などの直系卑属、父母、祖父母などの直系尊属についてだけです。被相続人の兄弟姉妹については認められていません。

遺留分が認められている人(遺留分権利者)は、相続の開始を知った日から1年間に限り、「遺留分侵害額請求権」を行使できますので、遺言書によって、相続または遺贈される相続人が困窮する事態が想定される場合には、遺留分に配慮した遺言書を作成しましょう。

遺留分侵害額は、現金で一括して支払わなければいけませんので、例えば、不動産しか相続しない場合は、現金を準備しなくてはならならず、その相続人が困る事態になりますので、そのような場合は、遺留分相当の現金も相続できるよう、遺留分に配慮した遺言書を残しましょう。

どの専門家に相談すれば良い?

遺言書を作成しようと考える場合、のちの相続争いを避け、遺産を相続した人が困ることがないような、遺言書を作成しなくては意味がありません。また、法的に有効な遺言書を作成することは言うまでもありません。

そのため、すべてを自分で行ってしまうのは大変危険です。わからないことがあれば、専門家のアドバイスを受けましょう。

もちろん、自分で行っても法律上は何の問題もありません。しかし、専門知識のない人が相続対策として遺言書を作成してしまうと、万一ミスが発生した場合、すべてが台無しになってしまうことがあります。

専門家に任せることで、手間が減り、時間も短縮され、ミスがなくなります。また、アドバイスをもらえることもあり、専門家に依頼すると報酬がかかりますが、結果として、かえって節約になる場合も多く見られます。どのようなときにどの専門家に相談したらよいのか、を表にしましたので、参考とされてください。

弁護士 自筆証書遺言・公正証書遺言の作成アドバイス、公正証書遺言・秘密証書遺言の証人・遺言執行者など
行政書士 遺言書の作成・遺言執行手続きなど
税理士 相続税・贈与税の相談など

まとめ

遺産相続では、「法定相続よりも遺言による相続が優先される」という大原則があります。

遺言によって、被相続人の意思が明確にされていれば、相続争いを防ぐことができます。また、相続そのものをスムーズに進めることもできます。遺言によって、相続権のない人に財産を譲ることもできます。

自分の財産を、どのように相続させたいのか、最終的な意思を伝える手段が遺言です。財産をどのように管理し、整理し、相続に繋げるか、今後の方針をはっきりとさせる意味でも、遺言を書いておくことをお勧めいたします。

相続対策としては、生前贈与を含めた生前対策も有効となります。そのうえで、遺言書を残すことにより、相続税や遺留分に配慮することができます。相続税や贈与税に関しましては、当税理士事務所に是非ご相談ください。

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